SFA・MAツールが「使いにくい」と言われる理由

更新日: 公開日: 2026/08

SFA営業支援システム)やMA(マーケティングオートメーション)は営業やマーケティングの仕事を楽にするためのツールだ.しかし「SFA 使いにくい」「MAツール 使いにくい」というキーワードで検索する人はツールの種類を問わず一定数いる.楽になるはずのツールがなぜそう受け取られるのか.背景には個別のツールの出来不出来ではなくSFA・MAツールという製品カテゴリそのものに共通する設計上のトレードオフがある.

「使いにくい」はツールの優劣とは限らない

Emacs・Viの例

自由度の高いツールと言えばEmacsやVi(vim)のようなテキストエディタが代表格だ.どちらもプログラマーがよく使う文章やプログラムを書くためのソフトだ.覚えるショートカットキーやコマンドが非常に多く最初は誰でも戸惑う.しかし一度覚えてしまえば手が止まらないほど快適に使える.しかもEmacsは本体がプログラミング言語の処理系のようなもので自分で機能を作り足せるほどの自由度がある.とっつきにくいツールが慣れると使いやすいツールに化けることは珍しくない.

タイピングの例

キーボードというツールの使い方にも近い話がある.タイピングは自己流の指使いのまま何年続けても自然には速くならない.人差し指だけで画面を見ながら打つ人は10年使っても同じ打ち方のままということが多い.一方指の配置(ホームポジション)を意識して覚えた人は画面を見ずにしかも速く打てるようになる.違いを生むのは使った年数ではなく覚えようと決めて練習したかどうかだ.

ただしここで注意したいことがある.指の配置を覚えて打つのが速くなったのは使い続けたから自然に起きたことではない.覚えようと決めて意識的に練習したから身についたのだ.同じ「使いにくい」でも放っておけば自然に解消されるものと自分から動かない限りいつまでも解消されないものがある.この違いを混同すると「そのうち慣れるだろう」と放置したまま実際には何も変わらないということが起こる.

漢字の書き取りの例

ここまでの例はどちらもツールの使い方の話だった.しかしこれはツールに限った話でもない.もっと身近な例で言えば漢字の書き取りもそうだ.新聞や本を読んでいれば読める漢字は自然と増えていく.しかし書ける漢字は読んでいるだけでは増えない.手で書く練習をして覚えようとしなければ何年経っても「読めるけど書けない」ままだ.

ではSFAMAツールの使いにくさはどちらのタイプなのだろうか.実は両方が混ざっている.学習すれば解消する部分もあれば学習しても解消しない部分もある.まずは慣れても解消しにくい構造的な使いにくさから見ていこう.

多機能なツールは画面の行き来が増えやすい

多くの画面に囲まれて目的の情報を探すビジネスパーソン

SFAMAツールには,顧客情報,商談の進み具合,メールの送信履歴など,たくさんの機能が詰め込まれていることが多い.多機能であるほど画面や項目の数は増える.目的の情報にたどり着くまでの行き来が多くなれば操作に慣れるまでの学習コストも大きくなる.これは特定のツールの欠陥ではなく多機能であることと引き換えに生じるトレードオフである.大規模で複雑な業務に対応できる豊富な機能を備えたツールほどこの傾向は強くなりやすい.

自由度が高いほど情報は探しにくくなりやすい

自由度の高いツールほど自分たちの業務に合わせて自在に組み立てられるのが強みだ.代表例はサイボウズが提供するkintoneのような業務に合わせて自由にカスタマイズできるタイプのツールだ.一方でその自由度の裏返しとして作り込むほど「あの情報はどこに入れたか」を探しにくくなる傾向がある.これは特定のツールに限った話ではなく自由度と探しやすさが両立しにくいというツール設計上の一般的な性質である.

同じ「自由度が高い」でも種類が違うことがある

冒頭で触れたEmacsやViも自由度の高いツールという意味ではkintoneと同じ仲間だ.しかし面白いことにEmacsが「使いにくい」と言われる理由の多くは学習コストの話でkintoneのような検索性の低下とは種類が違う.

つまり自由度の高さがそのまま検索性の低下(構造的な使いにくさ)につながるわけではない.kintoneの場合は自由度が「データをどう保存するか」という設計に向かうため情報の置き場所が人によってばらつき検索性が落ちる.一方Emacsの場合は自由度が「操作をどう拡張するか」という設計に向かうため操作方法を覚えれば済む学習コストの問題になる.同じ「自由度が高い」というトレードオフでも何に対する自由度かによって構造的な使いにくさになるか学習コストの使いにくさになるかが変わってくる.

細かい設計にも同じ構図が表れることがある

もっと具体的な例で見てみよう.

姓と名の表示順がずれる

CRM(顧客情報を管理するツール)・SFAの多くは姓と名を分けて登録する設計になっている.初期設定のままだと一覧や検索結果で名・姓の順に表示されることがある.海外製のツールに多い設計で日本語の並びとずれることがあり設定を変更して直す必要がある場合が多い.検索自体はできても表示順がずれていると見るたびに小さな違和感が積み重なる.

会社を経由しないと個人にたどり着けない

多くのCRMは「会社(取引先)→連絡先(個人)→商談」という階層でデータを設計している.欲しいのは目の前の担当者一人の情報でもまず会社を選び,そこから個人を選ぶという手順を踏む必要がある.世界的に広く使われているCRMであるSalesforceが「個人取引先」という機能を別に用意しているのもこの設計が個人中心の業務には不向きな場面があることの裏返しだろう.

いずれも機能が足りないわけではない.データをどう構造化するかという設計判断の結果として個人に最短距離でたどり着けないことがあるという話だ.こうした構造的な使いにくさが残ってしまう背景には開発する側が実際の営業やマーケティングの現場で日々そのツールを使っているとは限らないという事情もあるだろう.自分では気づきにくい不便さは設計にそのまま残りやすい.

「使いにくい」を見分ける三つの問い

3項目のチェックリストを確認しながら何かを診断している様子

ここまでの話を判断のためのチェックリストにしてみよう.何かを「使いにくい」と感じたとき次の三つを自問してみてほしい.

一つ目.何度使っても変わらないか

姓名の表示順や会社を経由しないと個人に辿り着けない階層構造のように操作を繰り返しても手間そのものは減らない.これは構造的な使いにくさでツールを変えない限り解消しない.

二つ目.使っているうちに自然と気にならなくなるか

画面のどこに何があるか,情報がどこに保存されているか,といった感覚は特に意識しなくても使い続けるうちに馴染んでいく.これは慣れで自然と解消される使いにくさだ.

三つ目.覚えようと決めない限り身につかないか

タイピングのホームポジションがそうだ.何年打ち続けていても自分から覚えようとしなければ我流の指使いのまま止まる.これは学習コストであり慣れとは別のものとして扱う必要がある.

ただしここには見落としてはいけない違いがある.Emacsもタイピングも使う人が自分の意思で選んで使い始めたものだ.身につけたいという動機がすでにある.しかしSFAMAツールは違う.日々の商談内容や顧客とのやり取りを記録する習慣がそもそもない人にとっては入力そのものが面倒だという印象が先に立つ.そこに「覚えなければ使いこなせない」という壁まで加わると学ぼうという意欲そのものが湧きにくい.使ってもらう必要のあるツールにとって三つ目のタイプの使いにくさは実は最も避けたい類のものだ.

一つ目はツール選びの問題だ.二つ目と三つ目は使い方の問題であり,この二つを混同すると「そのうち慣れるだろう」で済ませてしまい実際には身につかないまま止まってしまう.SFAMAツールの定着に教育や研修が欠かせないのは,多くの機能が三つ目の,能動的に学ばなければ身につかないタイプだからだ.

SFA・MAツールの「使いにくさ」もこの三つの目で見直すと評価が変わってくる.レクタスの営業支援システムは姓名の表示順や,会社を経由しないと個人にたどり着けない階層構造のような慣れても解消しない構造的な使いにくさが生じないように設計している.これは開発者自身が日々の商談や顧客とのやり取りの記録をレクタスに残しながら働いているからでもある.自分たちが使い続けているからこそ気づかないまま残ってしまう不便さが少ない.一方で画面のつながりや操作の流れに慣れるまでには多少の時間がかかることもある.これはタイピングや漢字の書き取りと同じ慣れれば自然と使いやすくなるタイプの使いにくさだ.

個別のツールではどうか

代表的なツールではそれぞれ具体的にどんな場面で「使いにくい」と感じやすいのか,また実際にどう向き合えばよいのかが変わってくる.SalesforceについてはSalesforceが「使いにくい」と言われる理由で多機能ゆえのトレードオフを詳しく解説している.

使い方が一本道になるよう設計し画面のつながりと検索性を優先したツールも選択肢のひとつだ.気になる方は営業支援システム(SFA)のページを見てみてほしい.

 

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